夜半過ぎに降った土砂降りの雨も、やたらと早起きの夏の太陽のおかげで10時を回るころにはすっかり乾いていた。
見上げる空には風にすうっと後ろ髪をなびかせるような雲。
ベールのように淡く広がってなんとなく光を和らげるから、太陽が雲の向こうに隠れると吹いてくる風が涼やかで、今年も案外秋も早いかもとサユミは思った。
もっとも、その5分後には雲一つなくなって、やっぱり今年は秋が来るのは遅いかも…と思わせられる。
兵舎から東へ歩くこと5分。
高い木の塀に囲まれた小屋のドアの前に立って、1つ大きく深呼吸した。
この時間、射撃場にいるのはイシカーさんだけ。
レイナはフジモトさんと格闘の特訓。
ツジさんとオガーさんはランニング。
イイダさんは…なんだろ…交信?
とにかく、今はイシカーさんだけ。
ドアノブを握って、なんとなくまた1つ深呼吸。
たかが射撃場の中に入るのに、何でこんなに緊張しなきゃなんないのか。
一度辺り見回して、ゆっくりと少し錆びついたドアノブを回した。
入ってすぐ右手側のドアはハンドガン用のスペース。4つのブースに分けられて20メートルほど先に白と黒の丸いターゲット。
サユミはそちらには目もくれず、まっすぐと突き当たりのドアを目指す。
軍用のカーキグリーンのキャンパス地のショートブーツの底が床を一歩踏むたびに、ギシギシとワックスの剥げた木の板がかすれた声を上げる。
ギシ、ギシ。
たかが10メートルほどの距離の間に、わけわかんないくらい高まる緊張感。
ギシ、ギシ。
ぎゅっと握り締めた拳は胸の上。
まっすぐ見据えてそこそこに歩けばもう目の前にはドア。その向こう、そこに広がる空気。
『 ロングレンジ用 』
目の高さより少しだけ高いプレートを見つめて、サユミはふっと息をついた。
ほとんど乙女隊が占有化している射撃場。
その中でもロングレンジスペース、ライフル用のその場所はスナイパーであるカオリとリカの二人の場所のようなもの。
そこにあるのは沈黙と鼓動。
静かなのに、静かだからこそはっきりと感じ取れる微かな息遣い。
やがてそれすら周りの景色の中に溶けてしまう頃、飛び出した弾丸はターゲットのど真ん中に埋め込まれる。
銃を構えてターゲットを見据える姿が神聖にすら思えた。
きっと神様とお話ししてるんだろう、サユミはそう思っている。
その邪魔をしてはいけない。
胸のドキドキは、そういうことなんだろう。
ドアノブにそーっと手を置く。
ドキドキが加速する。
まるで恋してるみたい。
ちょっと可笑しくなって、ほっと少しだけ解けた緊張。
今のうちにとドアをゆっくりと開けた。
キィ…ッ…。
思いのほか大きくきしんだドアにびくりと跳ねるサユミ。
「…っ!」
思わず声を出しそうになって慌てて口を左手で押さえると、静かに慎重にドアを閉めて足音を忍ばせて中に入った。
仕切りのないシートだけが置かれた5つのスペース。50m先にあるターゲット。小さな木のテーブル。そしてなにやらいろいろと置かれた4段ぐらいの木の棚。そして銃を保管するロッカー。
奥から2番目。
リカはライフルを構えて跪き、じっとターゲットを見据えている。
風に揺れる草。流れる雲。窓にかかったカーテンがパタパタと揺れる。
まるで色鮮やかな写真のように、一枚の絵としてリカはそこにいる。
時間が止まっている。
そんな錯覚。
一度レイナと覗きに来た時、なぜノゾミたちがカオリとリカがここにいるときに射撃場に近寄らないのかがわかった。ミキでさえ二人でいるときはここには近づかない。
静けさが生み出す張り詰めた緊張感。
それはターゲットを見据え、微かな息すら殺して気配を消し去る研ぎ澄ました神経と集中力が生み出す“静寂”と言う名の異空間。
そこを打ち破って暴れるツワモノはいない。
世界を乱すものは、容赦なく撃ち殺す。
そんな声が聞こえてくるからだ。
その声の主はおそらく、他ならぬ自分自身なんだろうけど…。
しかし、かくして障らぬ神になんとやら。
風の音、揺れる影。動かないリカ。
サユミがぼんやりと異空間に飲み込まれているところを、高い声がちょっとばかりの緊張感を残したままあっけなくぶち壊す。
「サユ」
ドキン!
心臓が飛びだした。
「はいぃっ!」
軽く30pほど飛び上がって、サユミはばしっと壁に背中をぶつけた。
バクバクバクバク…!
ぎゅうっと胸のロザリオを握り締め、へなへなと座り込む。心臓が痛い。それまでそれでもアップテンポのビートだったのにいきなりへヴィメタルである。ムリもない。
「サユ?」
構えを解かないままもう一度呼んでみると、後ろの方から、
「はっ…はぃぃ…」
よろよれとしたか細い返事が返ってきた。
そこでようやく構えを解いて振り向くと、ぺたんと座り込んで胸に手を置いているサユミの姿。見開いたまま焦点のさまよった目がなんとなくリカを映していた。
リカは安全装置を動かしてライフルを置くと、苦笑いしながらよいしょと立ち上がった。
サユミの目がその動作をぼんやりと追いかける。
「サユ?」
「はい…」
呆けた顔で見上げるサユミの前にしゃがむと、リカはふわりと微笑んで包み込むように抱き寄せた。
「ごめんね。驚かせちゃったね」
やさしく囁いて、ゆっくりゆっくりと背中をさすってやる。
よくわからないけどなんかいい匂い。
あったかい…。イシカーさん…。
やわらかいぬくもりと一緒にリカの胸から感じるトクントクンと規則正しい鼓動にゆるゆるとまぶたが落ちてくる。
懐かしい感触がふぅっと胸に甦ってきて、サユミは握り締めていたロザリオから手を離してリカの軍支給の半袖のチノシャツの袖を握り締めた。
すっかり体を預けて目を閉じるサユミの背中や髪をなでながら、ゆらゆらと揺れる。
さらさらと風が歌って、湿度のやや高い風が屋根の影で気持ちいい。
耳を澄ませば、
「たぁっ!」
ミキにあしらわれても果敢に向かっていくレイナの気合がこもった声。
「のんつぁん、おそーい!」
「えー…。もぉ…おなかへったぁっ…」
ランニングをするマコトとノゾミのやりとりに、リカから思わずくすっと笑みが零れた。
ふーっと吐き出されたサユミのため息。
ポンポンと背中を叩いて、リカは耳にそっと唇を寄せた。
「どう? 落ち着いた?」
コクリとうなずくサユミ。
うなずいて、リカは少しだけ体を離して顔を覗き込んだ。
「ホント、ごめんね」
「…」
うつむいたままふるふると首を横に振った。右手はしっかりリカのシャツの袖を掴み、力なく床に触れていた左手がロザリオを包み込む。
「サユ…?」
「…大丈夫です…」
不安げに見つめるリカに笑って見せて、サユミはそっと離れた。
「なんか…懐かしかったんです」
「…」
「お姉ちゃんにしてもらってるみたいで」
「…そっか」
リカは少し戸惑ったように眉をハの字に下げて笑っていたが、ちょっとはにかむような笑顔で見つめるサユミの頭をくしゃくしゃとなでて立ち上がった。
「立てる?」
手を差し伸べると、「はい」としっかりと掴んで立ち上がるサユミ。
そのまま手をつないで、とりあえずシートに置きっぱなしにしてあるライフルを手にした。
「そんなにびっくりした?」
「だって、イシカーさん…見てなかった…」
「ん? …あぁ…」
「わかるんですか?」
「うん。わかるねぇ」
「イイダさんも?」
「うん。カオたんも。あと、ケメちゃん…ヤスダさんも」
ふぇ…と顔中に驚きを広げるサユミに、リカはちょっと困ったような照れくさそうな笑みを浮かべている。
これがスナイパーなんだと思った。
空気を変えてしまうほどの集中。
銃声や怒号の渦巻く戦場にあってなお、彼女たちは絶対的な静寂。
背筋が震えた。
大して大きくないリカの手の中にある使い込まれて、だけどよく手入れの行き届いたライフル。
「なんかね、違うんだよね。みんな」
「何がですか?」
「何って…なんていうのかなぁ。空気…がね」
「空気…」
「うん。あとは足音とかね。ほら、ここは基地内だからみんな特に警戒するわけでもないし」
「で、わかっちゃうんですか?」
「わかっちゃうんだよね。これが」
そう言って、これも訓練の賜物なんだけどね…って笑った。
じりじりと地面を焼く太陽の光の中、どこぞでセミが声を張り上げて残りわずかな命を証明している。
なんとなく光に溢れた屋根の向こうの空を見上げて、そして視線をすうっと陽炎の中で揺れるターゲットへ。
ライフルをテーブルに置くと、リカはターゲットに向かって指で銃を作った。
「ばんっ!」
指先が呆れるくらい真っ青な空を突き刺す。
サユミもその隣に立って、
「ばんっ!」
ターゲットに向かって指で作った銃を撃ってみた。
バタバタバタッ!
焼け付く白い陽射しの中でミミズを突いていたすずめがわたわたと飛んでいく。
「あははっ! ストラーイク!」
リカはぐっと親指を立てた。そして、パチンとハイタッチ。
飛んでいくすずめをなんとなく見送って、リカはうーんと唸って両腕を高々と突き上げて体を伸ばした。
「どうしたの?」
「はい?」
きょとんとした目を向けると、ふうっと腕を下ろしてテーブルに浅く腰掛けたリカが首をかしげている。
「ここって、あたしとカオたん以外何でかみんなあまり来たがらないでしょ。ののだってあたしがいるってわかってても来ないし。カオたんとよく不思議だねーって」
「はぁ…」
何で来ないのか。どうも当人たちはその理由がわかってないらしい。
そっちの方が不思議です…とは、さすがにサユミも言わなかった。
「あれ? あたし、なんかヘンなこと言った?」
「…いっ、いいえ! そんなことないですよぉ!」
「ほんとぉ?」
「ほんとですって!」
はたしてスナイパーという人種はヘンに鋭いのか、それともサユミがただ単に正直すぎるのか。
「うーん…。わかった。でも…ね」
リカの顔がふっと不安の色を帯びた真顔に変わる。
じっと見つめる見透かすような瞳を、サユミは素直にまっすぐ見つめ返した。
「すごいですね」
「ん?」
「なんでもわかっちゃうんだなぁって」
「ふふっ。そんなことないよ」
けど、サユミはふんわりと微笑むだけで、キラキラとまっすぐに見つめられてなんか照れくさいなとリカの顔が少し赤くなる。
サユミもリカの隣でテーブルに浅く腰掛けて、乾いて焼けた地面と風に揺れる草が茂ったシューティングエリアに目を向けた。
「イシカーさん」
「ん?」
「私も…なれますか?」
穏やかに笑ってはいるがその目は驚くほど真剣で、ふとリカの胸に過ぎる記憶。
「なれるよ。練習すればね」
テーブルから離れると、リカは奥から2番目のシートに立ってライフルを構えた。
照準の向こうにターゲットを見据えて、すうっと息を吸い込む。
空気が変わる…。
たった一呼吸。
それだけでリカの姿がやさしいちょっと天然なお姉さんからスナイパーへと変わる。
サユミはじっとリカを見つめて呼吸を合わせてみた。
スー。
しかし、たった3メートルほどの距離でもリカが呼吸をしているのかがよくわからない。胸やおなかを見て、その微かな動きを探ろうと試みる。
ハー。
空気が張り詰めて、自分の中にも高まる緊張感。
スー。
少しずつ呼吸がわかるようになってくる。
ハー。
背筋をピンと張って、風に前髪をさらりと揺らすリカの姿が屋根の向こうの光の中に浮き上がって見えた。
ふぅっと何かの気配を感じる。
それでいて…やけに静かな自分の心と、すうっと視界の端から消えた風景。
タン!
「えっ!?」
気がつけば、ライフルを少し下げてターゲットを見ているリカ。
カシャンと薬莢が飛び出して床板の上に転がった。
「ふーん。まぁ、こんなもんかな」
ターゲットの真ん中の円の中にできた穴。
空の薬莢を拾ってシートとシートの境にある空き缶に入れると、リカはにこりと笑った。
「おいで」
「あ、はい」
サユミがテーブルから離れて小走りで駆け寄るとリカに座るよう促された。
リカはシートからいったん離れると、棚からケースを取り出して戻ってきた。
「なんですか? それ」
「これ? クリーニングキットだよ」
サユミと向かい合うようにまたシートに座ると、体の横にケースを置いて開いた。
「メンテナンスは大事だからね」
クリーニングロッドを繋ぎ合わせて先端に筒状のフェルトのようなものをつけると、ボルトを外して銃身にロッドガイドをつける。
その流れるような作業に見とれるサユミ。
「ねえ、サユ」
「はい」
「見てて楽しい?」
「はい?」
「うーん。なんかね、練習しに来たんじゃないみたいだし」
クリーナーと横文字らしきもので書かれたビンを開け、棒に刺したフェルトを中に入れて液を滲みこませて取り出す。
「わからないんでもないんだよ」
油の臭いがつんと鼻をさす。
「あたしもよくヤスダさんやカオたんの練習見に行ってたから」
「イシカーさんも?」
「うん。あたし、入隊した頃は前列、今のミキちゃんとかののと同じポジションで、サブマシンガン撃ってたからね」
銃身の中をクリーニングロッドがしゅっしゅっと往復する。
「でも、あたしよっすぃやののと違ってそんな体力やパワーがあるわけでもないし。それで…ね」
付いて行くのがせいいっぱいだった頃。
ただ必死になって、必死だった。
何があるわけでもない自分を嫌でも見せ付けられて、死への恐怖よりも無力感で逃げ出したかった。
「それにね、二人ともかっこいいの」
2、3回ほど銃身の中を往復させたクリーニングロッドを抜くと、フェルトを外してビニールに入れた。
「見たことある? ヤスダさんなんかね、きりっとしててかっこいいし。カオたんはね、なんていうのかなぁ…女神?」
「女神?!」
「そう! あの緊張感っていうか空気。なんかこう…優雅っていうのかぁ。光が射してるみたいなの。あの姿には憧れちゃうなぁ…」
ひどく簡単な説明だけど、サユミの頭にはものすごく鮮明に描きだされるイメージ。これだけ鮮やかなら実物を見たらどれほどなんだろう。戦闘時とまた違った良さがあるらしい。
リカは取り付けたブラシの先にさっきと同じ薬品をつけると、また銃身の中へと差し込んだ。
「あたしのなんか見るより、カオたんを見たほうが勉強にもなると思うんだけどなぁ。カオたん頭いいから教え方も上手だし」
「そんなことないですよ。私、イシカーさんが見たかったんです」
「またぁ。お世辞言っても何もでないよ。あたし、ちょーしに乗って本気にしちゃうよ?」
「ふふっ。してください」
ちょこんと首をかしげて素直な笑顔で言われてしまったら、もう疑うことなんてできない。
かわいいなぁ…。
リカはロッドを往復させながら照れくさそうに笑ってみせて、少しだけ遠い目で続けた。
「ある日ね、ヤスダさんが誘ってくれたの。そしてね…」
『あんたには、こっちの方がお似合いね』
「ライフルをくれたの。支給されたばっかりの真新しいの。それからカオたんも加わって、個人訓練の時はつきっきりであたしに時間を割いてくれて…。一ヶ月くらい特訓したかな…」
「そうなんですか…」
「うん。そのころはあたしとあいぼんとカオたん、ヤグチさんで特殊編成の任務があったから、カオたんに特訓してもらうことが多かったけどね。ヤスダさんとカオたんにはいろんなこと、いっぱい教えてもらったよ」
ロッドを銃身から抜くと、ブラシを外してまたフェルトを先端にとりつける。
「あたしなんてまだまだだから。見てて何か学べるものがあるんなら、うれしいけどね」
「イシカーさんも、かっこいいです」
「ふふっ。ありがと」
「上手く言えないですけど、どんな世界を見てるんだろう…って、そう思ったんです」
「世界?」
「はい。引き金を引くまで、しーんとした空気の中で何を見てるのかなぁ…って」
「…」
リカはロッドを抜いて先端のフェルトを袋の中に捨てると、ふむと目線を落として軽く息を吐いた。
「同じこと…ミキちゃんも言ってた」
「フジモトさんが?」
「うん」
『ねぇ。スナイパーってさ、構えてる時何見てるの?』
「別に…何も見てないんだけどね」
「どういうことですか?」
「うん…」
一つ自分に向かってうなずいて、ロッドに新しいフェルトを取り付けるとサユミからロッドを遠ざけるようにしてガンオイルをしっかりと吹き付ける。
「普通だよ。みんなが見てる世界と一緒。照準の向こうにターゲットを見据えて、呼吸を合わせて、集中して…。振動を少しずつ最小限に抑えて、撃つ…それだけ」
その“それだけ”が難しいことなのに、あっさりと言い切るリカにサユミは驚く。
「もちろん戦場じゃ時間なんかかけていられないけどね。だから、こうして訓練してる時は、撃たないでずーっと集中力を持続させるように訓練したりとか。あと…時々、カオたんみたいに交信じゃないけど思いにふけっちゃったりとかね」
「あの、たとえば…会話…ですか?」
「あぁ…なるほどねぇ。そう。そうかもね」
そう言って、ふとリカは顎に手を置いた。
「たとえば自分とか…。あぁ、よくヤスダさんと話してるかも」
「ヤスダさんと…?」
「うん。カオたんもよく言ってる。またケイちゃん来たよーって。住み着いてるのかもね」
えっ…。
サユミがきょろきょろと辺りを見回す。
どうやら、ここはある意味本当にミステリースポットになっているらしい。
「まぁ…さびしがり屋さんだからね」
呟くよう言って笑った顔はなんだか切なそうに見えた。
「まぁ、それはともかく、でも…そうだなぁ。静かな世界では…あるかもね」
「静かな…」
「うん。音のない…だけど音だらけの世界」
「でも、それってうるさいんじゃないんですか?」
「ふふっ。そうだね。だけどね…静かなんだよね。なんか一つになった感じ」
「一つ…?」
「そう。音も気配も全部自分のものになったような…そんな感じかな」
それがおそらく自分が感じた空気なんだろうとサユミは気がつく。
考えてみれば、集中と張り巡らせた神経によって作り出された世界の中心にいるんだから…。
リカはガンオイルを塗り終えたロッドを銃身から抜き出すと、黒く汚れたフェルトをビニールに捨ててロッドを分解し始めた。
そういえば…とサユミはふと、気づいた。
「あの…フジモトさん、ここ、来るんですか?」
「うん。たまにね。部屋の隅で腕組んでずーっと見てるだけなんだけどね」
「へぇ…」
「だからって何をするわけでもないし、ふらりといなくなっちゃうけどね」
おそらく、何の会話もないんだろう。
フジモトさんは、イシカーさんにいったい何を見てるんだろう。
すずめがちちち…と舞い戻ってきて炎天下の中でミミズを探して枯れた地面を突っつく。
少し高い木の塀を越えてレイナの少しバテ気味な声が聞こえる。
屋根の下の影とはいえ、ぬるい風に含まれた湿気がまとわりつく。
ロッドをケースにしまうと、今度は布にガンオイルを吹き付けて薬室を丁寧に磨いていく。
「サユ」
「はい」
銃に落としていた目線を上げ、何かを言いかけて開いた口を一度くっとつぐんでから、ふと考えるようにまた銃に目を戻した。
「ライフルを持つ人には、覚悟いるんだよ」
「…覚悟」
「そう」
薬室を磨き終え、またガンオイルをつけて今度は銃身へ。
「スナイパーの仕事はね、確実に命を奪い去ること。もちろん、それはどんな銃でも倒すことイコール殺すことだから当たり前なんだけどね」
磨きこまれて鈍い鋼の色に鋭い光が宿る。
手を止めると、リカは顔を上げた。
真剣な表情に思わずびくりとサユミの肩が跳ねた。
「スナイパーとは」
『敵に知られることなく、命を奪う』
「それは相手に死の予感を与えずに命を奪うということ。未来を奪うことなの」
『それだけじゃない。奪い取った命のそばにあった人たちに悲しみや怒りを与える』
「それが戦争。それがあたしたちの仕事」
『だからこそ、あたしたちは』
「より強く感じる必要があるの」
『銃を手にするという重さを』
「命を奪うということの重さを」
リカの向こうに? 中に? 誰!?
時折重なった声、そして気配。
サユミの目はすうっとわずかに見開いていて、吸い込まれるようにやわらかく微笑むリカを見つめていた。
右手で強くロザリオを握り締める。
リカはふっと少し自嘲するように笑った。
「キレイゴトだけどね」
リカは油塗れになった手をタオルで拭くと、布を畳んでクリーニングキットのケースにしまうとぱちんとふたを閉じた。
「…そんなこと…ないです」
サユミが小さく首を横に振ってみせると、リカはロザリオを握り締めた手にそっと自分の手を重ねた。
そして、リカの瞳が色を失う。光にも闇にもなれない重い灰色。
「自分が死ぬこともそう。いつ消えるかわからない命…。たとえ…何があったとしても…」
包み込む手はあたたかい。
この手から、誰かがぬくもりを奪い去る…そんな日が来ないとは限らない。
「簡単だよね。人差し指1本で殺せちゃうんだよ」
遠くにいようが近くにいようが、くいっと引き金を引けば簡単に人は死ぬ。
銃によってはさまざまで、気づかないままだったり、両手じゃ足りないくらいの人たちをいっぺんに空に返したり…。
そんな簡単なことなんだよ。
そんな簡単なことでいいのかよ。
何が正しい? 何が違う?
そんな簡単なことでいいんだよ。
それでまかり通る今現在、自分のいる環境。
「…」
重なっている手を見つめて背筋にぞくりと冷たい何かが走っていく。
「怖い?」
「…はい」
リカは体を寄せて包むように肩を抱き寄せると、ロザリオを握り締めた手を解いた。
いぶし銀の小さなロザリオが夏の痛いくらいにまぶしい光の中で静かに手の中で横たわっている。
「考えてないよね?」
「はい」
目を見てサユミはうなずいた。
答えと強い瞳の輝きに、リカは少しほっとしたような笑顔を見せた。
「意味がないって…教えられましたから」
あっけなく吹っ飛んだ。
ドーンって地面が吹き飛んで、まるで木の葉みたいにひらひら飛んでいったのが人間で…。
震えた。
伏せた地面に振ってきたのは土と肉の固まり。
その夜、レイナとエリと三人で抱き合って寝た。
どんな体を寄せ合っても、強く抱きしめても、震えは止まらなかった。
いつしかそれは当たり前になった。
自分の撃った弾で人が倒れた。
うれしかった。
自分は強いんだ。
「怖いです…」
自分が。
ふと気づく。
簡単に殺せるということは、簡単に殺されるということ。
足元に転がった味方の亡骸はぼんやりと空を見つめているようだった。
何が起こったのかわからずに、ただぼんやりと…。
手を見つめたら、真っ赤だった。
そう思った。
「イシカーさん。私…」
「…うん」
ぎゅうっと抱きしめてロザリオを乗っけていた手を取って繋ぐと、リカはサユミの頭を引き寄せて胸にうずめさせた。
トク、トク、トク…。
テンポよく刻まれる心臓の音、布越しに伝わるぬくもりの暖かさにホッとする。
ぴーひょろーととんびが遠くで鳴いた。
陽炎が揺れて、ざわざわと伸びっぱなしの草が塀のふもとで揺れた。
建物の影とはいっても暑苦しい大気の中。だけどぬくもりは心地いい。
目を閉じたサユミの中で浮かんでは消えて流れる風景。
ちりんちりんと風鈴が囁いて、挨拶もなく突然帰ってきた父と兄は箱に入っていた。
軍医だった父は基地へ戻る途中、襲撃にあった。
その半年後、兄は前線で吹っ飛ばされて片腕がなかった。
『顔がキレイなのは奇跡なんだよ』
おばちゃんはそう言ったけど、死んだら奇跡も何もないじゃない。
母はショックで衰弱して、気がついたら父と兄のところに行ってしまった。
姉と一緒に行き着いたのは親戚の家じゃなくって孤児院だった。
その2ヶ月後、町が襲撃された。
孤児院の先生達と一緒に遊びに行ってた子を探しに行った姉は、傷だらけで路地裏に倒れていたらしい。
孤児院の先生は見ちゃだめって言ったけど、言うとおりになんてできなかった。
裂かれてぼろぼろの服。青あざだらけの体。きれいだった足を汚している赤い線。何かの異臭。
キレイでやさしかった姉の姿はひどく疲れてて、まるで別人のようで涙も出なかった。
記憶の中の大好きだったお姉ちゃんは、まだ、いつも笑っている。
ポンポンとあやすように背中を叩いていたら、サユミがゆっくりと体を離した。
「…すみません」
「ううん。いいんだよ」
落ち着かせるように背中を撫でて、
「ごめんね。あたし、ヤなこと言っちゃったね」
申し訳なさそうにリカが微笑むから、サユミは笑って首を横に振った。
この子も強いんだ…。
胸がくっと締め付けられる。自分を見つめるその瞳にちらりと覗く灰色の影。
何も言わずに光を受ける胸のロザリオ。ゴシック調の細工が施されたロザリオは、たとえ3センチそこそこ小さくても荘厳で…。
リカは触れようとしてそっと指を伸ばしかけて、ためらった。
「イシカーさん?」
さまよった指はサユミの前髪をかきあげてそのまま梳くように髪をなで、そっと肩に置かれた。
「なんでもないよ」
「あの…いいですよ」
胸元からロザリオを持ち上げたが、リカは微笑んだまま小さく首を横に振った。
「あたしには触れる資格なんかないよ」
「え…?」
「だって、神様なんかいないもん」
時々見せる乾いた笑顔。そのときのリカはいつも寂しげで色褪せた瞳をしていた。
「でも…っ」
「サユは…神様を信じる?」
「はい」
よどみのない答えに、リカは瞳の向こうに淡い影を残したまま、だけどうれしそうに笑った。
「そっか」
強いな…サユは。
神様を信じるから強いというわけじゃないけれど、あんなことがあって、それでも信じることができる素直さがうらやましかった。
神様は、みんな持っていってしまったから。
赤い炎の中にすべてを包んで…。
神様なんかいじわるだ。
いや、そもそも神様なんかいないだろう。
そんな自分がロザリオに触れる資格なんて、たぶんない。
「イシカーさんは…何を信じるんですか?」
「仲間」
「…あぁ…」
「って、それは当たり前だよね」
リカはおどけたように肩をすくめると、クリーニングを終えて膝の上に置いていたライフルを手にして構えた。
「神様はいないけど、大明神がついてるから」
鮮烈な陽射しのかけらを受けて凛と光を宿すライフル。
大事にケースにしまうと、くしゃくしゃとサユミの頭を撫でてゆっくりとリカは立ち上がった。
追いかけようと腰を浮かせたら、リカに手で制された。
ぎしぎしと床板を鳴らしてロッカーの前でしゃがむと、ポケットから鍵を取り出した。
カチャリと音がして並べ置かれたライフルを一本手にして、また鍵を閉めてリカが戻ってくる。
リカが今使っているライフルに比べれば少しばかり新しく感じるが、それでもすごく丁寧に使われているものだということはすぐにわかった。
サユミの向かいに座ると、リカはすっとライフルを差し出した。
「やってみようか」
ドクンと心臓がなった。
黒光りする鋼の銃身。柔らかいチークピースの木の色。
「はい」
サユミの手がライフルを握った。
リカはライフルを握ったまま、まっすぐにサユミの瞳を見つめて静かに語りかける。
「いい?」
『いい?』
「銃を手にするということは、命を奪うこと」
『銃を手にするということは、命を奪うこと』
さっき時折聞こえた声がリカと重なっている。
「その重さを受け止めて、背負って生きていくの」
『その重さを受け止めて、背負って生きていくの』
「それが…私たちの仕事」
『それが…私たちの仕事』
「そして、使命」
『そして、使命』
銃を握る二つの手の上にもう一つの手。
リカの後ろにはっきりと感じるあの人の姿。
そして、リカの中に過るあの日の記憶。
「はい」
『はい』
うなずいて返したら、にこりと微笑んだ。
リカの手が銃からそっと離れた。
ずしりと感じる重み。
「大事に使ってね」
「はい!」
緊張感が全身に行き渡って、だけどそれが心地いい。
そんなサユミの姿にリカからも自然と笑みが零れる。
「メンテナンスとか、いろいろ覚えないといけないこともあるからね。しばらくは一緒に特訓だね」
「はい! よろしくお願いします!」
「うん。こちらこそね。カオたんにも言っておくから」
そう言うと、
「じゃあ、まずはさっそく撃ってみようか」
と、リカは今自分がいるシートをサユミに譲って、少し後ろに移動した。
「ライフルは軍学の基礎訓でも持ったことはあるよね」
「はい」
「じゃあ、構えて」
「はい」
銃床を肩に当て、少しぬるいチークピースに頬を軽く当てる。左手で銃身を支えて、右手の人差し指を引き金にかけた。
照準の向こうに見据えるターゲット。
ゆらりゆらりと炎天下の熱気に揺れて、ふいに風の音が耳についた。
背中に感じるリカの気配。鼓動。そして呼吸。
息をするたびにわずかに照準がずれ、鼓動が銃身を微かに揺らす。
「ゆっくり…。ゆっくりでいいよ。サユ。まずは慣れて」
落ち着けるような静かなリカの声。
すべての神経を使って呼吸をつめて、前に向かって意識を向けていく。
流れる雲。
風が触れる感触。
ざわざわと草がさざめく声。
塀を飛び越えてきたレイナのへばった声。
それをからかうミキの笑い声。
自分の鼓動とリカの鼓動。
いろんな音があるんだと思った。
それなのに、こんなに静かに感じるのはなんでだろう。
リカがさっき見ていた世界。
そして、カオリもケイも知っている世界。
トク…トク…トク…。
つーっと汗が頬を滑り落ちる。
たった引き金を一つ引くだけなのに痺れる緊張感。
これから、もっといろんな世界を見ていくのだろう。
そしてその価値観をいつかこの人と共有して、同じ世界のカケラを見ることができるんだろう。
タン!
引き金を引いて放たれた弾丸は、光の中へと消えていった。
*
射撃場から出たら、兵舎へと戻るミキとレイナの後姿。
「おーい!」
サユミがおっきな声で呼びかけて、立ち止まる二人。
小走りで駆け寄ると、泥だらけでへとへとのレイナにミキが軽く引くほどのハイテンションのサユミが飛びついた。
「なっ…サユ、重いってば!」
「えへへへへへっ!」
溢れんばかりのサユミの笑顔がわけわかんないレイナ。
リカが苦笑いしているミキの隣に歩み寄ると、泥だらけでぐったり笑顔のレイナを見て、
「ずいぶん派手にやったねぇ」
と笑うから、ミキは少し不満そうな顔をしてちょっと呆れ口調で言った。
「まだまだっしょ。もっとしごいてもいいくらいだよ」
「ふふっ。鬼」
つんって肘で突っついたら。えいってミキもやり返す。
「なによぉ。リカちゃんの時なんかもっとすごかったらしいじゃん」
「まぁねぇ」
入隊当時、ヒトミとノゾミ、格闘を得意としていた二人ですら、次の日もまともに動けないほどだった。
特訓と称されたそれはほぼ休みなく2ヶ月。
絶対に死ぬと4人は疑わなかったほどで…。
『なんであんなちっこいのに勝てないんだよぉ!』
『ぼーっとしてんのに…どっから何がくんのかわがんない…』
『師匠の動き…早すぎて見えへん…』
『殺されるかと思った……』
戦い方をわかっているすばしっこいマリ。
変則すぎる動きと力でねじ伏せるカオリ。
実は速さだけじゃない、意外に正攻法のマキ。
怖いのは顔だけじゃない、基本にも忠実なケイ。
それを思えば今は確かに楽なのかもしれない。
そういえば、あの頃あいぼん、まだふるさとの言葉で話してたっけ。
懐かしいあの日々に思わず零れる笑み。
ぽんっとミキの肩を叩いて、そのまま腰に腕を回した。
「そうだね。もっと厳しくないとね」
「でしょ」
きゃいきゃいとレイナにじゃれ付くサユミ。
ミキは二人が出てきた方を一度振り返って確認すると、はしゃぐサユミに目を戻した。
「ふーん。そっか」
「ミキちゃん?」
「ん?」
不思議そうな目を向けているリカにふっと微笑みかけた。
「十字架を背負う人が…増えたのか…ってね」
「…」
ポンポンとリカの背中を軽く叩いて、ぐっと抱き寄せた。
こうして太陽の下で笑っていられるはいつまでだろう。
空の中、雲の上に行ってしまうにはまだ早い。
もうこれ以上、誰も連れて行かないで。
見上げたら、風が雲を運んできていた。
太陽を少しの間だけ飲み込んだら、生ぬるかった風もやさしく感じた。
ひとしきりじゃれていたレイナとサユミが手を繋いで二人のところに戻ってくる。
ちょっとミキを軽く目で牽制して睨みつけつつ、疲れきっていたレイナの顔は一変してリカに向かってきらきらと輝いていた。
「あーあー。すっかりミキちゃんにいじめられちゃったねぇ」
よしよしと頭を撫でてやると、薄汚れたTシャツの袖で汗をぬぐってからぶんぶんと首を横に振った。
「そんなことないです! まだまだぁ」
ぐっとファイティングポーズを作ってミキを睨む。
ミキも腰に手を当ててちょっとふんぞり返るように見下ろす。
「やー。二人ともこわーい」
「こわーい」
リカとサユミがくすくすと笑う。
レイナの少しも曲がったところのない素直さがなんかかわいい。そして、うらやましい。
リカはチノシャツの胸ポケットから何かを取り出して、ぎゅっと握り締めた。
「レイナ」
「はい?」
「レイナは、神様っていると思う?」
はぁ…なんやろ突然…ときょとんとしたレイナだが、
「はい。いると思います」
何のためらいもなくすぐに答えると、
「じゃあ、後ろ向いて」
「はい」
おとなしく後ろを向くと、すうっと目の前を通り過ぎたシルバーのクロス。
トンと胸の上に置かれて、なんかだか重さを感じた。
リカは金具を止めると、くるりと自分の方に向かせてにこっと微笑んだ。
「大事にしてね」
「はいっ!」
元気のいい返事がちょっとくすぐったい。
レイナの手の中で輝くシルバーのクロス。細かい傷は多々あれど、2.5cmほどの小さな小さな飾り気のない十字架はなんだか神々しく思えて、レイナは思わず目を細めた。
サユミはふと、リカを見た。
やさしい微笑を返すリカ。
サユミはそっと小さな十字架に触れた。
「レイナ、大事にしないと…ダメだよ」
「あったり前ったい! なんゆうっとね」
あんまり真面目な顔をして言われたものだから、ついレイナの口から飛び出したふるさとの言葉。
サユミは心外だと言わんばかりにむくれるレイナの手を引っ張って走り出した。
「うわっ! サユッ!」
「わーいっ! もーすぐお昼ごはんだーっ!」
ばたばたと土煙を上げて兵舎に向かっていく。
サユミに引っ張られてよろけながらついていくレイナ。
カン! カン! カン!
ほどなくお昼ごはんを知らせるフライパンの音。
腰に回していた手をそっと滑らせて、自分の腰に回っていたリカの右腕とってそのまま指を絡めて繋いだ。
「よかったの?」
「うん。あたしが持ってるより…きっとレイナのこと、守ってくれるんじゃないかな」
「…」
「神様なんか信じない人より、きっと守りがいがあるでしょ」
「まぁ……ね。けどさぁ…」
続けようとして、ぎゅっと力を込めたリカの手にミキの言葉が途切れた。
「あたしには大明神がついてるから」
「…」
「だから、守ってあげてほしいの」
人であったろう消し炭と瓦礫の中で見つけた誰のものかもわらかない十字架。
小さな輝きの中に、きっとものすごいたくさんの思いが閉じ込められていて…。
どうか一つの命を守ってください。
都合のいいお願いゴト。
きっとサユミなら託した意味を上手にレイナに話すだろう。
この十字架を手にしたいきさつは、それからでもいい。
「それにね…。うん」
繋いだ手をくいっと引かれて、ミキが「ん」とうつむきかけた顔を上げたらふわっと重なったリカの唇。
ぴーひょろーととんびが円を描きったら、ぱっと離れた。
「リカちゃん…?」
「ふふっ。さっ、みんな待ってるから、行こう」
いたずらっぽい笑顔を見せてリカは繋いでいる手を引いて走り出した。
「リーカーちゃーーーんっ! ミーキティーーッ! はーやくーーーっ!」
ノゾミが食堂の窓から身を乗り出している。
「わっ! 待って!」
慌てて足を出したらもつれてこけそうになって、リカがクスクスって笑ったから、なんかおもしろくない。
「あっ! もぉ!」
体勢を立て直してリカの手を引っ張って前に出た。
「もぉーーーーっ! おなかすいたぁ! いちゃいちゃしてないで! はぁやぁくぅーっ!」
ノゾミの怒りの声にリカとミキが顔を見合ってふふふって笑う。
にぎやかな二つの足音は青空に吸い込まれ、二人の姿も兵舎の中へと消えていった。
暑い暑いお昼時。
にぎやかな昼食が始まる。
(2004/8/9)
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